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その瞬間だけ、1秒くらい、ゆっくりとわたしに母を思い出す時間が与えられる。
母の、白かった腕を。
そこにいるはずの母を探す。母はこうで、こんなだったの、なんて、日だまりのような日々を回想しながら。
言うなれば温水プールのような生ぬるい感触のなかを、わたしはきらきらとした水泡を吐きながら、ただただ漂う。水底から見える水面はひかりを帯びて、水のうごきに合わせてゆらゆらと揺れる。わたしも、それに合わせて揺れる。
そこに、肉体の概念は、ない。あまりに心地よい感覚に、わたしはいつのまにか目を閉じていた。
━はずだったのに。
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