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さっきから蛙が私の乳房の上を跳ね回っている。ちょうど親指ぐらいの大きさの、小さな蛙だ。色は緑とも茶色とも黄色ともいえない、例えるならば、嘔吐物の色だ。私は蛙に『ゲロ』という名前をつけた。
しばらく放っておくと、ゲロは足を踏み外したのか乳房から滑り落ちそうになり、私は思わず乳房の下に両手を据えたが、ゲロは私の乳首にしがみついて難を逃れていた。
私はそのままベッドに仰向けになった。ゲロを助けるためでもあり、単に私が疲れているせいでもあった。私は裸に膝まであるブーツという格好だった。視覚的には不自然だが、その、ブーツからはみ出た私の太ももの、所在無さが良かった。だから、服を着る気にもなれなかった。
ゲロは私の乳房と乳房の間でいつのまにか落ち着いてしまったようで、白い腹を規則正しく膨らませたり閉じたりしている。
窓からは西日が差している。この部屋を選んで、良かったと思う瞬間である。薄いばら色の空に、月がひっそりと顔を出す。月の引力に引き寄せられるように、夜はやってくる。
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