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ところが明くる日、目が覚めると咲いていたのは真っ赤なバラの花だった。そのつたは私の右足に執拗に絡みつき、棘のせいでいたるところから出血していた。
「これだ」
私は右足を決して動かさないように、枕元に置いておいたスケッチブックと鉛筆を急いで拾い上げ、血だらけの足を模写した。
いいアイデアは新鮮なうちに形にしておかないと、腐って使い物にならなくなってしまう。生魚と同じようなものだ。
血はシーツにいくつもの染みを作ったり、私のふくらはぎでパリパリに乾いたり、それでも棘の深く入ったところから、心臓のリズムに合わせてまた新しい血が流れ出している。私は克明にそれをスケッチブックに描き写した。そして新鮮な血を指ですくい上げ、描き上げたバラの花びらにそってそれを滑らせる。その工程を何度か繰り返すと、花びらには真紅のグラデーションが出来上がるのだ。
出来上がったモノにフィクサチーフを噴射し、スケッチブックを目に近付けたり、離したりしてその出来を確認した。
ゲロは私の髪の毛を掻き分け出てくると、勢い良く窓枠へ飛び移った。
久しぶりに、眩暈がした。
(fin)
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