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わたしは乱雑に積まれたDVDをあさった。なにか想いっきり感動系のモノを観て強制的にこの感情を流してやろうと思った。
「やめなよ」
と、タケシはひとことだけ言って、あの気持ち悪いミルクティーをすすった。ものすごくいらいらむんむんとしたので、わたしはてきとうなDVDを、内容の確認もせずにデッキに押しこんだ。このあいだ買った、23インチの液晶テレビに映ったそれは、わたしが望んでいたチープな恋物語でも、ほろっと泣けちゃうホームドラマでも、アルマゲドンでもなかった。
『これからおっぱいがでないときのマッサージほうほうをせつめいします。とくにしょさんのかたは』
あれ。あれれれ。
わたしは映画で泣きたかったのに妊婦マニュアルで泣いてしまった。わぁんわぁんと赤子のように喚き散らした。それをタケシの視点で見ているわたしがいた。こいつはなにをやっているんだという冷ややかな視線で。そして生クリームのたくさん入った気持ち悪いミルクティーを飲み干す。
うらぎられた。
わたしはほんとうの白をこの目で見たかったのだ。
(fin)
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