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注目されたい。
由美香は
ヒールの音をカツカツと響かせて
タイル張りの舗道を
速足で歩いている。
ミニスカートから伸びた脚に
すれ違うオトコの視線が
絡みつくのを
充分、意識しながら。
由美香は
自意識の強いコだった。
…と言っても
その自意識は
コンプレックスと
紙一重だったが。
身長は
チビっこの部類に入る。
メリハリのある
グラマーな体型だけれど
「デブ」というコトバには
ピクリと反応する(^^;
いつでも
目から
レイザービームのような
強烈な視線を発している。
…刺さる(-_-;。
意志の強そうな
シャープなアゴと
一文字に結んだ口元の
小さなホクロが
印象に残る。
彼女は
飲み屋の
テナントばかりが入った
繁華街のハズレの
サビれかけた一角に向かって
カツカツと
歩いていく。
その辺りには
春先の
まだ、さして強くもない
午後の日差しは
のどかな明るさを
届かせていない。
夜になれば
それでも
色とりどりの看板に
灯りがつき、
客足はなくとも
店に働く人々が
それなりのニギヤカさを
連れてくるのだけれど、
今はまだ
時刻が早い。
商店もオフィスもない
こんな一角では
ランチ営業をするような
店もなく、
カラスやノラ猫が
勢力争いをしている。
仕込みの多い
居酒屋や食べ物屋では
もう
働いているヒトも
いそうだが、
歩くヒトはマバラだ。
由美香は
その一角の
ひとつのビルに
まっすぐ入っていく。
電気代の節約のつもりか
通路は薄暗い。
薄暗い通路の奥の
エレベータは
ボタンが
押されたコトに反応して
ゆっくりと
黒い扉を開き、
ニブそうに
何度か点滅させながら
柔らかいクリーム色の
灯りがつく。
由美香のスイッチも
ここで
完全に切りかわって
「小林由美香」は
ドコにもいなくなる。
エレベータの
乳白色の
灯りに照らされて、
「南條レオナ」が
そこにいる。
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