『Like A Rolling Stone』

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 謙吾の六畳の部屋に、リトル・リチャードの「JENNY,JENNY」の高音が鳴り響いた。寝ていた僕はまだ半分しか開かない目のままその音の出所を探し、面がガラスになっているテーブルの下から携帯を取り出した。 『着信 山田真治』 僕は「もしもし」と気だるい声で電話に出た。 「今大丈夫?」  相変わらずの真治の声だった。真治とは僕の小学生からの幼なじみ。小学、中学と一緒で何度か同じクラスにもなった事がある。高校は別だったが、それでも毎日の様に遊んでいたし、お互いが認める親友だ。僕が東京に出て来てからは会う回数は減ったが、それでも電話などで話していたし、地元に帰ると必ず遊んでいた。その真治からの着信。特別珍しい事ではなかった。 「大丈夫だよ。何した?」 「あーちょっと話があってさ。」 「うん。何?」  まだ眠い。時計は午前十一時を示していたが、昨日はライブの打ち上げで少々飲み過ぎていた。かるく気持ち悪い。なかなか真治の返答が無く、沈黙だった。 「何したのや?」 「なんかさ、電話で言うのもあれなんだけどさ・・・」 「うん。何?」 「なんかさ、俺親父になるわ。」 「は!?」  一気に目が覚めた。 「いやいや、何言ってるかわかんないから。」 「俺もどうして良いかわかんねぇんだけど、三ヶ月だってさ。」 「は!?まじなの?」 「うん。」 「それでどうすんの?」 「まだわかんねぇ。てか俺も今知ったばかりだからさ。」 「三ヶ月って言ったら、まだなんとかなるんじゃないの?」 「そうなんだけど、ほんとまだわかんねぇよ。とりあえずまた連絡するな。」
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