『Like A Rolling Stone』

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 電話のプープープーという音が、虚しく聞こえた。本当に信じられない。今日がエイプリルフールじゃないかと思ったが、今は六月だ。とりあえずタバコを吸おうと金のマルボロの箱を開けた。箱の中には一本も入っていない。仕方なくパーカーを羽織って、タバコを買いに家を出た。外は梅雨のジメジメした空気が漂っている。雨は降っていないが、今にも降り出しそうな勢いだった。さっきの電話が夢のように思えてしかたない。真治との昔の思い出が脳裏に浮かんできた。小学の休み時間にサッカーをした事や、中学の夏休みの花火など、次から次から浮かんできた。僕らはもう二十三歳だ。真治は高校の卒業と同時に就職しているから、もう就職して五年が経っている。別に親父になっても不思議じゃない。高校のクラスメートで三年の時に子供が出来て、学校を辞めて産んだ女が居る。もうそいつの子供は五歳か六歳。幼稚園に入る頃だろう。その後も何人かの友達が結婚し、子供が居る奴もけっこう居る。今回の真治の事も驚くべき事じゃないのかもしれない。でもまさかあの真治が親父になるとは・・・  タバコの自販機に三枚コインを入れ、金マルを買った。さっそく箱を開け、中からマルボロを一本取り出した。家から持ってきたジッポで火を点けた。確かこのジッポは高校を出てこっちの専門に来る時に、真治に餞別で貰った物だ。あれからもう五年が経つのか。中学の時からギターをしていて、高校卒業後の進路も音楽の専門学校を真っ先に決めた。東京に来ればなんとかなると思っていた。当初の予定では二十歳にはデビューしているはずだった。ところが現実はコンビニでバイトをし、六畳のアパートに暮らしている。音楽活動と言えば、月に二回キャパが百人ぐらいのライブハウスでのライブと、週二回のバンド練習。メジャーデビューなど遥か遠い。遠くから工事の騒音が聞こえる。東京に来て五年で、僕もすっかりこの街の住人になっている。
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