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「五百二十円になります。」
いつもと変わらないバイト。コンビニの深夜なんてお客もまばらで、やっと来たお客もほとんどが雑誌の立読み。本当に時間との闘いだ。バイトを始めた頃は、朝方の四時半頃に眠気がピークになり辛かったが、今ではすっかり昼夜逆転の生活になっている。昨日真治から電話が来た。
「もしもし、何してた?」
「いや特別。」
「そっか。あのさ俺、彼女に産ませる事にしたよ。」
「まじで?」
「うん。なんかさ、あれから色々考えたんだけど、やっぱ堕ろせとは言えねぇよ。」
「まあな。でもお前はそれでいいの?」
「うーん、はっきりいいとは言えないけど、どっちにしろ結婚するならあいつって決めてたしさ。」
「そっか。それならいいっしょ。」
「うん。なんか金はねぇけど、ガキが居る生活っていうのも悪くねぇかなって。」
「真治パパだな。」
「いや照れるから。まずこっち帰ってきたら、飲みながら色々話そうぜ。」
「おう。」
うまく言葉に出来ないけど、正直『すげぇ』と思った。話し声だけだけど、責任を持とうとしているのが分かった。僕が感じただけかもしれないが、真治の声が親父の声に聞こえた。そして今までのあいつの声で一番かっこ良かった。
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