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「おつかれさまです。」
朝の風は気持ち良い。段々晴れの日も増えてきて、夏が近いのが分かる。今年の夏は何しようか。誰かの野外ライブでも行こう。この後は家に帰り寝るだけだった。習慣からだろうか、朝の八時に決まって眠気が来る。五分程でアパートに着き、寝タバコで色々考えた。真治が家庭に入る。あいつなら良いお父さんになるような気がする。子供が男の子なら間違いなくサッカーをやらせるだろうな。一緒にボールを蹴っているのが目に浮かんできた。それと同時に僕の目からは光るものが出てきた。別に悲しいわけじゃない。むしろめでたい事だ。いやこの涙は真治に対してのものじゃなかった。自分自身に対してだった。自分は何しているのだろう。僕は家庭とか安定に興味がなかった。むしろそれを求めている奴を馬鹿にしていたぐらいだ。しかし二十年後、どうなっているのだろう。真治のこれから生まれてくる子供も、高校生になっているだろう。もしかしたらもう一人ぐらい子供が居るかもしれない。僕らの親がそうであったように、子供の反抗期や思春期に頭を痛くしているだろう。その時、僕は何をしているのだろうか。夢は叶っているのだろうか。もしかしたら夢破れて、地元に帰っているのかもしれない。僕は夢を追い始めた時から、結婚は考えないようにしてきた。四十歳の僕。もしかしたら一人で暮らしているのかもしれない。僕は今まで将来の事は考えないようにしてきた。いや考えると不安になるだけだから、蓋をしてきたのだった。本当は恐いのだ。一人が恐いんだ。周りが家庭を持ち、幸せを手に入れている時に、一人なのが恐いのだ。「一人でも生きてやる。」「夢が叶うまでプーしてやるよ。」と友達には言ってきたけど、本当は誰よりも孤独が恐かった。幸せって一体何なんだろう。僕はこのままで幸せを掴む事が出来るのだろうか。果たして夢を追う事が幸せなのだろうか。僕は言い表せない不安のまま眠りに就いた。
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