『Like A Rolling Stone』

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 今日はバイトが休みで、一駅離れた練習スタジオでのバンド練習だった。真治の「子供を産ませる」という電話から三日が経った。あれから僕は悶々としていた。相変わらず不安のままだし、「幸せとは」の答えを探していた。練習スタジオにはまだ他のメンバーは到着していなかった。受付前ロビーの椅子に座り、マルボロを吸い始めた。最近タバコの吸い過ぎで胃の調子が悪い。ずっと胃がムカムカしている感じ。体調も精神的にも最悪。五分後初めに来たのは、ヴォーカルの宏樹だった。彼とは音楽の専門学校で知り合った。音楽の趣味が同じ所から仲良くなった気がする。音楽以外でもバンドメンバーの中で一番仲が良い。 「今日は早いね。」  相変わらず優しい声をしている。ルックスも悪くない。自分が女だったら惚れているかもしれない。モテるのに女癖が悪くない。こういう奴を本当にモテる男と言うのだろう。 「なにしたの?顔色悪いよ。」 「なんか体調最悪。」 「あんま無理すんなよ。」  宏樹と一言二言話すとベースの浩次が入ってきた。彼の親は地元の建設会社の社長である。彼との知り合いも専門学校。ドラム以外、専門学校の頃からの仲間である。元々メンバー全員が同じ専門学校の奴だったが、ドラムの奴は専門学校を卒業すると同時に田舎に帰り、音楽とは無関係の一般企業に就職した。そこで活動休止状態の知り合いのバンドからドラムを引き抜いた。そのドラムの信が到着した。 「あれ?俺が最後?謙吾の方が絶対遅いと思ってた。でもまだ七時なってないよね。ギリギリ遅刻じゃねぇな。」  信は本当に明るい。そして人懐っこい。後からバンドに加わるメンバーというのは、初めやりにくいものだが、信はこの性格ですぐ僕らのバンドに馴染んだ。僕も信のこの性格を知っていてバンドに誘ったし、宏樹も浩次も信の事がすぐ気に入った。僕らはみな同じ二十三歳である。同じ歳という事でなにかとやりやすい。 「じゃあスタジオはいっか。」
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