二十二歳

2/12
前へ
/12ページ
次へ
「それじゃあまずカバーで『どうしようもない恋の唄』。」  僕はイントロを弾き始めた。その軽快なリズムに乗せて、雅人が歌い始めた。 「♪あの娘はとても気まぐれで♪」  今日は僕達のバンド『キャッチャロー』の初ワンマンライブ。初なのに客入りは上々。ドラムの建治は縦乗りに上体を揺らし、全身で叩いている。ベースの圭吾も奴の性格を表すように、控えめにリズムを刻んでいた。ギターソロでスポットライトが僕を照らす。「まじ最高!すげぇ気持ちいい。」僕はどんな楽園よりも上の世界に居た。僕らは一時間半演奏したが、それは一瞬の出来事のようだった。 「今日はほんとありがと!またするからぜひ来てね。」  雅人のあいさつにお客さんから大喝采がおくられた。そして僕らはお客さんに一礼して、楽屋に戻った。 「まじ最高だね。」  楽屋の椅子に座った雅人はライブの興奮のまま口にした。楽屋と言ってもほんとせまいとこで、壁にはたくさんの落書きがしてある。僕の興奮も最高潮で、みんなに叫びに近い大声で言った。 「もっとオリジナル作って、もっと客呼ぼうよ。」 「だな。じゃあ今度はオールオリジナルで行くか?」 「いいね!」  雅人が答え、それに建治も圭吾も乗ってきた。僕ら4人は幸せの絶頂に居た。僕は、いやみんな「今死んでもいい」ぐらいの気持ちだろう。雅人がまた大声を出した。 「それじゃあ、ぱーっと打ち上げに行きますか!」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加