二十二歳

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 さすがに三時間ぶっ通しは疲れた。軽く耳鳴りもしている。でも僕はこの感じが大好きだった。楽器をしまい、僕らはロビーで話しながら一服した。みんな音楽が好きな奴だから、気分が良く大声で笑いながら話していた。その時、あるポスターが目に入った。 『キングキャットメジャーデビュー』  それは新人バンドのデビューCDの宣伝ポスターだった。そのポスターにはでかでかとこんなコピーが書いてあった。 『期待の高校生バンド。遂にデビュー。』  僕はいきなりテンションが下がった。このキングキャットというバンドを知っているわけではない。会ったことも、どんな音楽なのかも聴いたことはないけど、僕は自分がなにか虚しくなった。ふと自分の年下が自分と同じ夢をすでに叶えているんだなと思った。自分はもう二十二歳。そう『もう』なのだ。『まだ』二十二歳じゃないかと言ってくれる人も居るだろう。僕も必死にそう思っている。そうじゃなきゃどんどん自分に自信がなくなるから。でもこうして年下が成功していく機会が増え、その度自分には才能がないのではないかと思ってしまう。音楽は好きだ。それは間違いない。でも好きとそれで食べるは別物なのかもしれない。 「孝、どうしたの?」  真也が僕の異変に気付いて声を掛けてきてくれた。 「いやなにも。」 「そう。これから飲みでも行く?」 「あ、今日はいいや。」  僕は真也の誘いを断った。そして一人家に帰っていった。バイクで受ける風がやけに冷たかった。
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