二十二歳

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 『まもなく到着いたします。お忘れ物のありませんように。』  週末裕美が地元へ帰ったので、僕も久々に里帰りした。新幹線を降りると懐かしい匂いがした。どんな匂いかは説明出来ないけど、ホッとする匂い。雅人に連絡して、飲むことになっている。待ち合わせの飲み屋に着いたが、まだ雅人の姿はない。ここには高校の頃、ライブの打ち上げなどよく通った。店を見渡したけど、さほど変わっていない。 「おー。久しぶり。」  数分後、雅人がやってきた。圭吾も一緒だった。 「おー。建治は?」  二人を見たら、ついつい聞いてしまった。 「なんか学校が忙しいんだって。」 「そっか。」  そうだ。飲み屋の風景は変わってなくても、僕らの状況は間違いなく変わっているのだ。そして僕らは三人で飲み始めた。 「お前、奥さんは?」 「ああ。もう臨月だから、実家帰ってるよ。だから今日はとことん付き合うよ。」  僕らはお互いの近況を語り始めた。雅人から出るのは会社のグチばかりで、圭吾も黙って頷いている。二十分ぐらい聞かされたが、僕にはこいつらが今の生活を楽しんでるとは到底思えなかった。昔あれだけ「俺はやってやるよ。」って言っていたのは、どこにいったのだろう。なにか僕とは違う遠くにいってしまったような気がした。 「それで孝はどうなの?」 「まあ、それなりにやってるよ。先どうなるかなんてわからないけど、やれだけやろうかなと思って。」 「お前はすげぇよな。俺ら挫折組だもん。なあ?」  雅人がそう言うと圭吾も「すげぇよな。」と言った。でもこいつらが本気ですごいと思っているとは僕には思えなかった。「お前もよくバカばっかやってるな。」としか聞こえなかった。それから僕らは昔の思い出話をしながらだいぶ飲んだ。でも僕は酔っているけど、テンションはあまり上がらなかった。
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