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さて。世界征服云々以前に、まずは魔王を呼びださにゃならん。
魔王ってのは、隣合った異世界に住む凄い奴のことだ。説明がめんどい。想像に任せる。
学術上「第三世界」と呼ばれる俺らの世界にだけは魔王が居ないから、第十五世界までで魔王は全部で十四体ってことになる。
魔導書に残る記録によれば、これまでの歴史に、祖父の他にも魔王は何度か召喚されているそうだ。
環状世界帯と呼ばれる繋がった異世界の集合体。
召喚術とは、そこに干渉して異世界の存在を呼び出すわけだが、実はそれほど難易度が高い術ってわけでもない。
現に、これまでの人間の歴史に現れた魔王の数は、記録に残ってるだけでも8体。中には、とある王国の建国に貢献したという魔王がいたり、また、国家戦争を舞台に二体の魔王が争ったりもしたそうだ。
――そして、史上最悪の魔王と呼ばれた者こそが、俺の祖父が呼び出した、強大にして邪悪な翼竜。
第十一世界の魔王、《アギナルド》はレッドドラゴンである。
翼を広げりゃ街一つに影落とす、でっけぇ翼竜だったそうな。そのアギナルドは召喚と同時に街を焼き尽くし、使役者である祖父までを殺したために第三世界から消滅することとなった。
こいつは問題だ。
召喚する魔王は選べないらしいから、アギナルドだけには当たらんよう、こればっかりは祈るしかない。召喚された存在を消すには術者が死ぬ必要があるため、もしアギナルドが現れた日には、俺は自害をしなくちゃならなくなる。祖父みたいな大悪党になりたくないしな。
理想としては、先述の、建国に一役買ったという律義な第一世界の魔王か、もしくは、まー、人間とコミュニケーション能力のある魔王ならなんでも良いや。
重要なのは、俺の世界征服計画に協力してくれるか否か。それだけである。
ある意味でギャンブル。なんだか、結構高い確率で俺は死ぬことになりそうな悪寒がひしひしとするが、いたしかたがあるまい。このまま人生を送っても、いつの日か俺も同じ人間に殺されかねないのだから。
「うむ。準備完了」
某所。森に捨てられていた空家を改良した俺の住居であり、隠れ家。
真紅の絨毯に張られた仰々しい魔術陣を組む二階の書庫にて、俺は一人、高鳴る鼓動を感じていた。
鬼が出るか蛇が出るか、いや、これから俺が出すのは魔王である。
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