ステージ

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「何かしらを表現することが生きるってことだと俺は思っている」……なるほど。 僕はカズキの意見にやや心を揺らされる。しかし所詮はそれも『一種の考え方』でしかないのだと、僕は改めて認識する。世の中に正しい考え方などありはしないのだ。全ては自己判断に任されている。結果、そこに個性が姿を現す。 僕は『観客』なのだ。いつからかそう考えるようになっていた。世の全ての音楽を聴いてやろう。全ての本を読破してやろう。ただ全てを吸収しよう。そう考えるようになっていた。 僕は『観客』……? 一瞬、疑問が頭に浮かぶ。ほんの一瞬だ。一秒未満かもしれない。でも、確かにこのとき、疑問が僕の頭をよぎった。 『一体誰のために僕は観客と化すのだろうか?』 答えは最初から決っている。無論、僕は自分自身のために観客と化している。わたくし、イトウヨシノのために。 ならば何故(答えが分かっているのに)、こんな疑問が頭に浮かんだのだろうか。僕は苦悩する。頭をかく。終いには自らの拳でボコボコ叩く。 しばらくして考えることを止める。本に集中しようとする。たまに音楽を耳を傾ける。そうして、ようやく僕は完璧な観客となる。 ! 気が付くと目の前が真っ暗になる。
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