バリュー

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「いらっしゃいませ」 はつらつとした声が店内をこだました。どうやら部屋の一際奥に座っている、一人の男が放った言葉らしい。彼はテーブルを境とし、私達との立場を隔てているように見えた。 男はまさしく私がテレビで見た人物であり、未来ウオッチャーTAKUその人であることは間違いなかった。彼は部屋の色とは反対に、真っ黒なスーツに身をまとっていた。髪も黒く、肌も浅黒い。よってこの部屋内で、彼はかなり浮いた存在となっていた。もっとも、それこそが彼の狙いではあるのだろうけどね。ある意味、彼にはとてつもないオーラを感じるよ。 私達が訝しげに辺りを見回していると、まるで私達の心の中を覗き見るかのように、彼は再び口を開いた。 「本日、この時間のお客様はあなた方だけですよ。こちらは完璧な予約制をとっておりますからね。いくら辺りを見回しても他にお客様はおりません」 彼はズバッと言い切った。それは私達にとってズバリ今聞きたかった言葉でもあった。 カナエは足を一歩踏み出して言った。 「でも、スタッフの人とかはいないんですか。このお店はあなた一人だけなの?」 彼は頷いた。「もちろん。私は一人でこの店を経営しています。他人なんか信用できませんからね。もっとも、私の役目はあなたのような人々をただ占うだけ。スタッフなんて必要ありませんよ。君はそう思いませんか?」 彼は頭をこちらに向け私を見た。どうやら私に同意を求めているらしい。やれやれ、いきなり参っちゃうよね。
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