ステージ

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ノックの音が鳴りやまない。しかし、扉に鍵がかかっていないことに気付くなり、その人物は僕の返答を待たずして部屋の中へと入り込んでくる。 僕はそれに対して慌てない。驚きもしない。なぜなら、その人物は僕の『唯一の』友人だったからだ。 彼は僕に声をかけてくる。 「なあ、俺はわざわざノックしたんだぞ。一応の礼儀をわきまえてな。でも、お前の態度ときたら……」 カズキは少々憤りを感じさせながら、僕の向かい側に置いてあったパイプ椅子に座った(僕の部屋にはなぜだかパイプ椅子が置いてあるんだよ)。 僕はそんな彼の発言や行動に対し、聞いて聞かぬふり、見て見ぬふりをする。頭を上げることもなく、僕は本のページをめくる。 カズキは再び口を開く。 「いや、分かるよ。俺だって何かに熱中している最中に邪魔されちゃあ、なんていうか、ムカッとする。自分の世界に入り込みたいんだな、これが。でもさ、俺はお前に用事があるからわざわざ部屋まで訪れたんだよ。だから、そんな態度をされちゃ、こっちの方がイラッときちまうんだな。おい、そろそろ顔を上げろよ。聞こえてるんだろう、ヨシノ」 自身の名前に反応し、僕は顔を上げる。条件反射だ。僕は名前を呼ばれることにひどく敏感なのさ。なんてったって女の子みたいな名前だからね。
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