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僕は答える。待っていたと言わんばかりに。自分の全てを言葉に込めて。
「僕は『観客』なのさ」
「観客?」とカズキは復唱する。
僕はうなずく。そして言う。
「僕は、歌手じゃないから歌わないけれど、観客だから歌を聴きはする。スポーツ選手じゃないから実際に運動はしないけれど、観戦することはある。作家じゃないから小説は書かないけれど、読むことはある。ほら、今さっきだって、僕は本を読んでいただろう。でも読むだけだ。触発されて自身で本を書いてみようとまでは思わないのさ」
空気の音が聞こえる。もちろん、空気の音なんて聞こえるわけがない。でも僕達の間にはそれが聞こえる。お互い黙り込み、まるで言葉がこの世から失われてしまったかのようである。
「……ということは」カズキが口を開き、ひとまずは彼がこの場を制した。「お前はこの先、いわゆる自己表現というものはしないつもりなのか?ただ見て、聴いて、読む。俺からしたら、その考え方は少なくとも楽しそうには思えないね」
「付け加えるなら、僕は見て、聴いて、読んだ後、考えてはいるんだよ。いわゆる感想のようなものを頭に想い浮かべるのさ。ただ、それを表現しないだけだ。僕はただ吸収し続ける。今までそうやって生きていた。そしてこれからも」
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