ステージ

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カズキは険しい顔をする。腹が立ったというよりは失望したという感じの顔である。 「寂しい人生だな」と彼は言う。 「人にはそれぞれの考え方、生き方があるからね」 僕はカズキの目を見つめる。少しでも理解を得てもらえるようにね。でも彼は目を逸す。どうやら時間を気にしているらしい。 時計の針はさっきよりも角度を広げている。長身と短針が、まるで喧嘩でもしたかのように反対側に位置している。 「そろそろ行かなくちゃならない」とカズキは言う。「でも、お前は歌手じゃないから歌わない。だから合唱コンクールには出ない。そうだよな」 僕はうなずく。そして口を開く。 「そしてカズキ、あるいはクラスのみんなは歌手じゃないけど歌う」 「考え方の違い」と彼は言う。そして立ち上がる。パイプ椅子は折り畳み、端へ追いやる。「出来ればお前を連れて行きたかった。無理矢理にでも」 「金賞が取れるよう祈っておくよ。もちろんこの場からだけど」 カズキはため息をつきながら扉に向かって歩く。五秒で扉に到着する。取っ手を握り、右に回す。押す。最後に振り向き、そっとつぶやく。 「じゃあな。『俺達』は歌うよ。なぜなら、それが生きるってことだからだ。何かしらを表現することが生きるってことだと俺は思っている」 僕に何らかの返事を(少なくとも別れの挨拶くらいは)期待していたのか、カズキはしばらくその場に立ち止まった。 しかし、僕は何も言わない。挨拶すらしない。特に理由もないのだけれど。
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