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「ヒャフォ~!!」
体の奥底まで響きそうな地響きと、風に乗って聞こえる奇妙な雄叫び。
「きっと馬鹿ですね」
ユアは呆れながら、装飾の施されていない鞘から細身の長剣を抜くと構え、ライナも土を払いながら、ナイフを手に立ち上がる。
2人が住んでいた世界『エデン』では、見た事もない種類の馬が数十頭と、如何にもと言える格好をした男達。彼らも2人に気づき囲む。
「よぅよぅ。こんなトコでぇ何してぇんだぃ?」
下品た笑みを浮かべ、耳の尖った小男が聞いた。
「にぃちゃん達。金目の物を渡せば見逃してやるぜ」
この賊達のボスと思われる、見事な体格とひげを持つ男が言った。
「どうする?」
ライナが面倒臭そうに一応聞いた。
「利用出来る物は利用すべきですよ」
蒼い目を細めたユアが、輝かんばかりの笑顔で言い切った。
「者じゃなくて物かよ。まぁ、その意見には賛成だぜ」
ライナは笑いながら、目にも留らぬ速さで一気に賊へ襲いかかり、ユアも不敵な笑みを浮かべ、賊の攻撃を巧みなステップで交わしながら斬りかかる。
「野郎共、にぃちゃん達に思い知らせてやれぇ!」
ボスの怒声が、思わぬ反撃に怯む者達を僅かに奮い立たせたが、辺りに賊達の悲鳴が響き渡る方が速かった。
ライナは器用に馬の背を足場に賊達を蹴り落とし、透かさずユアは落馬した者達を剣の柄で頭や急所を殴り突く。
2人の早業に賊達はただ悲鳴を上げるしかない。
「分かった。にぃちゃん達、分かったから止めてくれ!」
見事な筋肉美の強面のボスは、ライナに蹴り落とされ、地面に強か打ちつけたお尻を摩り、涙声で訴えるしか出来ない。
「条件を飲むのなら、これで止めてあげますよ」
ユアは近くにいた小男の頭を剣の腹で殴ると、良い音が鳴った。
「ひぃ、条件はなんだ!? 金か! 宝石か!」
ボスは怯えながら叫ぶ。
「そんなのは欲しくねぇよ。俺達が欲しいのは」
「移動手段と情報です」
ライナとユアが笑顔でボスに言った。
「へ?」
ボスは意外な事を言われ、口をだらしなく開けた。
「そ、それだけ?」
ボスはおずおずと確認する。「えぇ」と言いながらユアは天使のような笑顔を向けた。
†††
微かに水の香りを漂わせ、妙にすべすべとした馬に跨って草原を進む。
「何だ、にぃちゃん達、迷子かぁ。今、ワシらはここにいるんで」
義賊アゼルのボスのダリオンは、使いこまれた地図でおおよその現在地を指さす。
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