第1章 巡り合わせ

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地図には六つの大陸といくつもの島が描かれている。残念ながら文字は読めない。読めない悔しさを押し殺してユアが地図を睨む。 「このアレフ、ベート、ホープの三つの村と、大きい所ならケテル山にある始りの巡礼地か、離れた場所にあるアテナだな」 村だと情報が少ないかもしれないし、だからと言って大きい街だと、義賊と名乗っていても結局盗賊であるアゼルが近寄れないだろう。 「そういや、にぃちゃん達は本物の人間みたいだな。丸耳と言い、体格と言い…」 「ボス、人間は遥か昔に滅んだんすよ。確か、何年か前の異世界から来たと狂言を吐いた奴が投獄されたって聞きましたよ」 ダリオンと部下達の話にゾッとしながら、ユアとライナはアイコンタクトをとる。自分達が異世界人、人間だとばれたら命が危ない。 話題をそらすべくライナは視線を巡らすと、遠くに緑色の美しい山が見えた。 「あれって?」 「あぁ、世界樹か? あんな物が珍しいなんて田舎の出かぁ」 「世界樹…?」 ダリオンの後ろに乗っていたライナが、お気に入りの帽子に手を置いて固まる。この世界にあった事も驚いたが、日が射さない暗く幻想的な巨木の森と、日に溢れたこの世界とでは違いすぎる事に驚き、世界樹と言う言葉でユグドラシルの事を思い出す。 向こうの世界であった年の近い仲間達、同じ異世界人の者達。それらの中でも、一番印象が強かった、美しい緑色の髪を持つあの子は元気だろうかと想う。 「…ライナ。貴方、アリスの事を考えてませんか?」 「…お前、頭おかしいだろ? 何でそこでアリスが出てくるんだよ」 「モロ分かりますよ。単純なせいか、顔に出やすいですね」 1人で馬を操っているユアが嘲笑うように聞いてきたので、顔を赤くして言い返したが無駄だった。正しく緑の髪の彼女、アリスの事を考えていたからだ。 如何にも、分かっていますよと言う笑みを浮かべるユアの視線から逃れようと、ライナは空を見る。 「何です?」 ユアも釣られて見上げるが、青い空しかない。 「いや、俺の見間違いだ」 一瞬、空が微かに光ったように見え、目を細めて確認したが何もない。ライナはすぐにその事を頭から追い出すと、何処に行くかとダリオンが尋ねた。 「ケテルだ」 聞き覚えのある声が答える。ライナとユアは嫌そうに振り返ると、森の中に黒ずくめの男が幹に体を預けて気障っぽく立っていた。
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