第1章 巡り合わせ

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「はぁ。そもそもお前がユアを怒らせるから…」 昨日までは正直楽しかったのだが、この世界『セフィロト』に来て二夜目。不機嫌のあまりライナは内心毒突く。 隣にいるのは、ユアではなく嫌いなウルフ。いつも一緒にいる筈のユアは昨日の一件で力を使い果たし、村の宿で休んでいるため仕方なくライナはウルフと共に、カインが囚われている山の中にある天然の牢獄を監視する。 「初恋…」 「煩いッ。もう二度と言うな」 体を丸めたまま、からかうように言ったウルフの言葉を遮り、真っ赤な顔をしたライナが恥ずかしそうに俯いた。昔、本当に昔の話だが、物心ついた頃、ライナはユアが女だと勘違いをしてしまった恥ずかしい過去がある。まさか男に初恋してしまった秘密はライナにかなりの精神的ダメージを与えた。 その恥ずかしい過去を無理矢理追いやって、昨日ウルフが持ち込んだ話を思い出してゾッとする。 突然現れた二人の前に現れたウルフがこう言ったのだ―― 「実は一週間前、ケテルに人間が出たらしいんだ。灰色の髪と赤い瞳を持つ男だと聞いたな。その男が捕まって、多分そろそろ断首とか?」 ニッと笑ってウルフはライナとユアを見る。見る見る青ざめた二人には、ウルフが言った特徴を持つ男に心当たりがあったのだ。それは一週間前に行方不明になったカインの特徴と一致する。もし、それが真実なら取るべき選択肢は一つ。 「カインが…」 冷酷な面もあるユアですら、全くの他人とは言い切れない関係であるカインを見捨てる事は出来かね、思わず呟いてしまった。 その呟きを聞いたウルフがダリオンに言う。 「その人間の男は、この子達の知り合いらしい。是非助けてやって欲しい」 「ほぉ、カインていう人間か! それが本当なら、是非会ってみてぇ」 今まで関わらないようにしていたダリオンが、筋肉で盛り上がっている太い腕と厚い胸を抱きしめながら、身悶えするように頬を染めて興奮する。正直言って気色が悪い。 「白髪のおっさんが身悶えるなよ」 「うごっ!?」 ライナは思わずダリオンを馬から蹴り落とす。 「良い水馬だな。これなら、明日中にケテルにつくか?」 ダリオンを助け起こし、ウルフはライナが乗っている馬の首に手をやって褒めると、当然のように馬を一頭借りて乗る。 「おうよ。よっしゃ! 人間に会いに行くぜえ!」 そういう訳で、アゼルと共にカイン救出作戦が始ったのだ。
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