第1章 巡り合わせ

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半数を退路の確保のために割き、残りは牢獄周辺に潜んで時を待っている筈だと、横になったままユアは思う。 ライナ達がカインを救出すれば、早朝、この村の外で合流予定だ。 「…はぁ。私はいったい何をしているんでしょうか?」 質素な部屋には寝れるだけましな、堅いベットの上で寝返りを打つ。左腕をまくら代わりにし、窓を見れば月と村の焚火が夜を照らしている。明かりの無い暗い部屋で、ユアは溜め息をついた。 「はぁ」 宿に一人残されて、先程から何度目かわからない自問を繰り返す。はっきり言って、このような自問は無駄だと言える。そんな無駄だと分かりきっている、愚かな事をしている己に苛立つ。 「セフィロトですか…」 月明かりに照らして地図を見る。もし、ここにライナがいれば、目を悪くすると言って注意している所だろうが、今はいない。 「暇すぎです」 じっとしていると、この世界に来てからの事を考えてしまって居ても立っても居られない。今は焦っても仕方がないと言うのに、無駄に焦ってしまう心を鎮めるために、持ってきた荷物から本を取り出すために起き上がる。長い髪が乱れている事も気にせず、本へ目を通すと、ある事に気づいて慌てて茶色の革表紙を月明かりに照らす。 月明かりに照らされたそれは、『生命の木の女神と異世界』と書かれ、この世界に持ってきた本ではなかった。何時の間に荷物の中身が入れ替わったのだろうか。 「…きっとウルフの仕業ですよね。いったい何を考えているのか、彼のする事はさっぱり分かりません」 そう言いつつも、彼がこれを見せたかったから入れたのだろうと思うと、好奇心が勝ってしまう。 「作者はラファエロ。聞いた事のない作者ですね」 手描きと思われるその本は、生命の木についてのラファエロの研究内容だった。しかし、その内容は過激で、読む物を引きつける魅力で溢れ、すっかりユアを夢中にさせた。 ††† なるべく静かに牢獄内を歩き、巡回している看守を一人一人気絶させ、濡れている足元に注意しながら奥へ進む。 岩がむき出しの監獄は寒く、空気も停滞しているようで、何となく迫ってくるような圧迫感を感じてしまう。 「おい、ウルフ」 圧迫感から逃れるよううにライナはウルフへ、声をひそめて話しかける。ウルフは無言で視線だけをライナに向けた。 それは、今の状況を理解していない子供に対する侮蔑が含まれているように見える。
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