第1章 巡り合わせ

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それにいささかムッとしたが、状況を考えて怒りを納める。 「あのさ、こんな時に言う事じゃないけど、ユアをからかわないでくれる? あいつ、神経質だから、今みたいに環境が変わると調子が狂うんだよ」 普段のユアと比べると、昨日の暴走は度が過ぎる。きっと、苛立ちと、よく変わらない状況への混乱が重なって爆発してしまったと、過去の経験からライナは理解している。 「…子供だな」 「悪いかよ」 大げさに肩をすくめるウルフを睨む。この銀髪の男が持つ厳しさは、冷酷と紙一重のように感じ、ナイフの柄に手を添える。 「いや、別に構わないが、子供だと許される時期だからと言って甘えられても困る。世界は子供と言えども、辛く厳しい物だ。まぁ、良い環境の所に生まれれば、周りの大人が守ってくれるだろうが」 「何が言いたいんだ?」 「生まれた国、世界によって決まると言う事さ。平和の世界、国に生まれて良かったと感謝するべきだろうと言う事だ」 そのセリフを言ったウルフの目の鋭さと雰囲気が、言葉の裏を返せば、彼が冷遇を受けていたのだと思えた。それでも、ライナには譲れない物があるのだ。頭一個分高いウルフを挑むように睨み返す。 「ユアにちょっかい出すなよ。あいつは家族だからさ」 それに対する返答はなく、ウルフは微笑んだだけだった。 「もう少し、危機感を持ったらどうだ? 時間が掛かり過ぎている」 「…あぁ」 今はカインの救出が先だと、思考を切り替えると目の前の事に集中する。ダリオンを含む数名が、他のルートから侵入しているとは言っても、この監獄は広く、手分けして探すのは骨が折れる。夜が明ける前に村から脱出しなければ、地の利で勝ち目がない。 急がなければと思った瞬間、研ぎ澄ましていた耳が先に音を捉える。少しずつ奥の曲がり角から明かりが近付いてきている事が分かった。ウルフとライナはその壁沿いに角へ近づき、看守が姿を見せた途端、一気に飛びかかると、悲鳴を上げる暇も与えずに一気に気絶させた。 「見ろ」 気絶させた者を隠す時間すら惜しみ、壁際に横たえるとウルフに促されて奥へ視線を向けた。その奥にランプのぼんやりとした明かりを反射して、白っぽい髪が見えた。 翌朝、ケテル山の山頂から朝日を眺めようとしている者達が集まっていた。暗いせいで視界が悪く、それでも朝日見たさにやってきた物好きは、数名の巡礼者の他には、アゼルしかいない。
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