第1章 巡り合わせ

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「人間に会いたかった…」 落胆するダリオンをアゼルの者達が慰める。ダリオンが落胆する理由は、救出する人間がいなかった事。いたのは、巡礼者の金目の物を狙って捕まった窃盗犯だったのだ。 誤った情報だったと落ち込んでいる者達の中で、ライナとユアだけは違った。 「どうせ、意図的に間違った情報を教えたのでしょう?」 周りに聞かれないよう、ウルフに背を向けたままユアが声をひそめて聞く。 「私は一度もカインと言う名を言って無かったが」 確かに一言もカインの名を出していない。まんまとやられたと、ユアが溜息をついた時、天啓がひらめく。何故、こんな単純なことに気付かなかったのかと、我ながら呆れた。 引きつった笑顔で聞く。 「どうしてカインが行方不明だと知ってるのですか?」 にやりと笑ったウルフの笑顔は、肉食獣の笑みを思わせる。そんな笑みを浮かべて、内緒話をするように前かがみをする。 「それは、カインを私の上司が保護してるからな」 あっさりと白状されて、「はぁ!?」と間抜けな声をライナと一緒に挙げてしまう。 そんな奇妙な二人の声を聞いて、周りの者達が二人を見る。慌てて声を落としウルフを問質せば、黙りを決め込んだらしい。それが気に食わないユアは苛立ち、柄にもなくブーツの爪先で土を蹴る。 「荒れてんな」 「荒れますよ」 プライドの高いユアが、何かに敗北感を感じるとこうなると分かっているライナは、慌てる事なく対処する。 「まぁ、頭を冷やしてみろよ。お前なら何とか出来るって」 「また、適当な事を…!」 逆効果に見えるこれも、ライナが呑気に振る舞えば、そんなライナを見て余裕を取り戻そうと黙るのだ。落ち着くためにユアは深呼吸をする。 「そう言えば、私の荷物にこれが入ってました。多分、ウルフが入れたと思うんですが…」 「おぉ、珍しいもん持ってるな」 ライナの手に渡るより早く、ダリオンが奪う。目の周りの筋肉を頻繁に動かし、険しい表情から察するに、ライナとユアの世界の言葉を読もうとしているようだ。 「むぅー、せ、せいめいのき。めがみとぉ、いせかい?」 「読めるのかよ」 「ふん! 俺を舐めてもらっちゃ困る。古代語は一攫千金を狙う盗賊の必要なスキルだ」 誇らしげに、見事な胸を反りながら答えた。
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