第1章 巡り合わせ

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††† グレーの髪に赤い瞳のまだ若い男が苛立った気持ちを落ち着けようと、息を一つ吐く。こんな薄暗い、空気の流れが滞った場所で絞られる身にもなれと悪態をつきたいが、地の利がない以上辞めておく。 カインは椅子の背にもたれながら冷めた目で相手を見つめる。 調べもの中に、突然背後から何者かに背中を押され、崖から落ちたはずだった。気が付けば見知らぬ土地の名の分からぬ湖に落ち、全身ずぶぬれになった。土地勘がない故にさ迷い歩いていると鎧で身をまとった連中に突然捕まった。場所を尋ねても無視され、もしかしたら移動の手間が省けるかもしれないと大人しくしていればこの様だ。 彼は、オリエント帝国オリエント魔術学園講師、カイン。彼を知る者は皆、変人、奇人、妄執に取りつかれた天才のなれの果てだと、酷い事を言われ続けていたが、本人は一度も気にしたことがない。 しかし、これは不味い事になったとは内心では思う。 何故なら、今まさに自分のしてきた研究の一つが今の状況に仇となっているからだ。一言でいえば、『魔物使役』。凶暴な魔物を意のままに完全に操る研究である。 まさかただの気晴らし、趣味みたいな研究のせいかを欲しいと、目の前にいる者達は言う。どうやらこの連中もその手の研究に着手していたらしい。が、様子を伺う限り失敗しているようだった。 「人間、貴様はどこから来た?」 「はっ、俺様がおしえるわけがねぇだろ? 馬鹿か?」 いつもの癖で悪態が出る。どうもここでは『人間』は危険らしい。分かってはいるが、ついつい目の前の凡人共に趣味とは言え、研究成果の一部を渡すのは腹立たしい。 「愚かさゆえに滅びた人間の癖に!」 目の前の耳が尖った人間以外の者がキレたらしい。拘束されている身としては不味い状況だが、カインは余裕綽々という様子で後ろへ椅子ごと倒れこむ。そのまま後転するように素早く起き上がる。 椅子へ縛り付けていた縄の結び目は綺麗に解けていた。 「何!?」 突然の変化について来れず、怯んだ一瞬の隙に、部屋の隅に置かれていたカインの鞄が勝手に開き、銀色に光る複数の物が飛び出して襲う。
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