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ナイフ、刃のついたブーメランのような物、いざと言う時の為の武器が宙へ全て飛び出すと、再び鞄が閉まり、鞄がカインの手元まで飛んで行く。
「うわぁ!? 何だこれは!」
「奴は得体のしれない魔術を使うぞ!」
カインは一目散に背を向け部屋を飛び出す。地の利がない以上、早く外へ出なければならない。
部屋を出てまず驚いた。廊下の床には倒れた者達しかいない。いや、その中に1人だけ、笑顔を浮かべ涼しげに立っている者がいた。男の片眼鏡が光を反射して光る。
「お迎えに上がりました」
そう言っていきなり頭を下げられた。
男が動くたびに、一本に結われた腰まである長い髪が光を受けて緑や銀色に見える。男のまとう雰囲気から、神官や研究者のような俗世を離れているような役職についているイメージが湧く。
だが、そのイメージに騙される程、カインは素直ではなかった。静かに廊下にいた者達を倒した行動力、戦闘能力、どれをとっても目の前にいる男は、只者じゃない。
それにこの研修所らしき場所からは人の気配が感じられない。先程まで聞こえていたはずの怒号もいつの間にか静かになっていた。カインの攻撃は見えない力、つまり念力で物を動かし、近くにいる者を襲うようにしていたはずだった。軽く刺され切られたぐらいで静かになる筈がない。
後ろを見ると全員が床に倒れていた。目の前の男の仕業か、それとも他にいる男の仲間の仕業かーー。
冷静に考えて、戦えばまず勝ち目はないだろう。
「あんたは?」
内心冷や汗をかきながら聞く。
「私はヴォースト所属のレスと申します。上司に言われてお迎えに上がりました」
そのレスと名乗る不思議な男と出会ったのが一週間前である。
†††
レスと言う男のお蔭で今自分が置かれている状況を理解した。
この世界はセフィトロと呼ばれ、ドワーフやエルフと言ったオリエント帝国の人間から見れば幻想生物が支配している世界だと言う。人間が滅んだ世界ーー。
そして自分が囚われていたのは『ダアト』と言う地にある政府の施設らしい。
一週間でこの世界にまつわる知識を不自由ない程度には身に着け、今はアテナと言う街を目指している。レスにそこに行けば分かるとだけ言われたのだが、地図を見る限りまだ長そうだ。
「どうせなら近くまで送れって言うんだ」
舌打ちすると、遠くから奇声を上げる集団が見えた。タイミングが良い。カインは笑う。
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