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実力はあるが、問題児として見られている2人は、アースのリーダーに毎日怒鳴られ、サボると必ず捕まえに来るのだ。
「ふふふ…」
その時、後ろから不敵な笑い声が聞こえてきた。
「お前ら… 今日こそ覚悟しろよ」
2人は揃って振り返る。
笑い声の主はリーダーのアーダーだった。体格の良い20代の彼は満面の笑みを浮かべているが、眼は全く笑っていない。
「さっさと、巡回しろぉ!」
アーダーの怒りがついに爆発し、ライナとユアの襟首を目にも止まらぬ速さで掴み、強引に墓地から連れ去った。
「リーダー、僕達には使命があるのです」
首が絞まって苦しそうに呻きながらユアは言い訳をつく。
「そうそう。俺達には大事な使命があるんだよ」
帽子が落ちそうになって、ずり落ちないように押さえながら、我が意を得たりとばかりにライナが同意する。
「ほほぅ。ミスト区に住む市民の安全を守る以上に何がある? え? 言ってみろ。巡回がどれだけ大切か分かっているだろうが」
「それは…」
短髪の茶髪の彼が怒りを含めた笑みで見下ろし、笑みの形になろうと、唇が無理矢理持ち上がっていた。
そのアーダーの笑みと、怒りがはっきり言って怖い。
反論できない2人は、視線から逃れようと、無駄だと分かりつつも顔を背ける。
「それに卒業試験の勉強はどうした? お前らはまだ学生だろう。本業は学生兼、警備隊のアース所属だよな?」
殺気を感じつつも2人はアーダーの言葉に頷き、反省の態度として項垂れたが、本心は全く反省してなく、その証拠に地面に向けた顔は嫌そうな表情だった。
「まぁ、アースの創立者であるドリュウ様の顔に免じて、勤務時間の1時間延長で許してやろう」
「えぇ~!?」
ユアとライナの声がこの時、見事に揃った。
「元気があってよろしい」
アーダーは2人を立たせ、2人が逃れられないように腰のベルトをしっかり掴んで一緒に街を見て回る事になった。
墓地から大分離れると、石畳と白壁の家々が薄オレンジに染まり始めた美しい街並みが、3人の居る丘から見渡せる。遠くには海と、全く見えないがその先にはオリエント帝国があるのだ。
「さて、行くぞ」
「はーい」
渋々とライナとユアはアーダーの後に続く。
この瞬間はまだ、ミドカルド王国の誰もが、既に平穏が壊れ始めている事に気づいていない。
そして、新たな運命の歯車がすでに動き出したこ事にすら、まだ気づいていないのだ――
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