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オリエント帝国の会議堂、円卓会議室――
赤い絨毯の敷かれた大理石の部屋に大きな円卓と、それを囲む人々が殺気を放つかのような熱気で話し合っていた。
上座に座るまだ若いラズリー陛下とそれを囲む議員、騎士、学者と言った様々な身分の人達が、一週間前に起こった突然の魔物の凶暴化と言う緊急事態の見通しがやっとつきそうである。
「――では、皆にはこれまで通り頼むぞ」
「はっ!」
陛下の静かな灰色の瞳が集まった百人近い者達を一人残らず見渡し、最後に俯いて隣に座っている学者を見たが、その学者は俯いているために気付かずに、きちんと正面を見ていた他の者達は陛下の信頼のこもった視線を受け姿勢を正すと、一斉に起立してそれぞれが持ち場へ帰って行った。
集まった者達がいなくなる時を見計らって、まだ隣に俯いて座っている学者へ再び視線を戻す。
「モリュウ」
静かにモリュウと言う青年へ声をかける。
「はい」
「一週間前にお前が異変を伝えてくれたからこそ、さしたる被害もでずに済んだのだ。それに…カインの事は心配いらない。彼はまた異世界に行ったのだろう。今度も必ず戻ってくるさ」
気安そうにに笑いかけ、モリュウも何とか笑顔を返すと、2人は窓から見える空へ視線を移す。その視線の先にミドカルド王国――話でしか知らない、カインと共に『異世界』を冒険した仲間――の姿を思い浮かべ、一週間前に天空の塔から消えたカインの無事を想い、彼らの信じる世界樹の女神へ静かに祈る。
†††
夕闇に包まれた街。今日も何事もなく、無事に終わろうとしている事を女神へ感謝する祈りが、朗々と家々から聞こえてくる。それを聞くと、今日は何故かライナの胸に不安がよぎり、ユアもまた美しい顔を僅かに歪めた。
「ただいま~」
いつも通りに振る舞うライナが、家にいるだろう者達に言う。
「明日はもう少し調べましょう」
ユアが茶色の制服についたホコリを払いながら家に入る。
サボった罰として、アーダーに連れまわされた見回りはハードスケジュールで、流石の二人も口答えする元気すら残っていない。
ここはミスト区の古い住宅街にあるライナの家。
家庭の事情でユアは八年前からライナの家の同居人であり、今ではもう家族の一員である。
「なんだ、結局見つかったのか」
台所の方からライナの祖父、ドリュウの声が聞こえてきた。
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