第1章 巡り合わせ

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「墓地に隠れてるのがバレさ、一時間長く仕事してきた」 ライナは帽子を取って頭を掻く。 「それよりも情報がやっと入ったぞ」 ライナと同じ赤い髪とダークグレーの瞳を持つ隻眼のドリュウが、そう言いながら2人の前に姿を現した。 ライナは驚きで固まり、ユアは笑いをこらえる。彼は、戦闘や普段の彼からは想像も出来ない、厳つい眼帯と強面の人相が釣り合わない可愛いエプロン姿だったのである。 「じぃちゃん、どうしたんだ?」 『じぃちゃん』と言う言葉で孫へ殺気を向けてきたドリュウを見ながら、ライナは恐ろしさに震えながら聞いた。隣にいるユアは堪え切れず笑いだす。 「料理しているに決まっているだろうが。それよりも話がある」 ドリュウは2人に座るように促すと、2人は静かに座る。 座ったのを確認したドリュウは内緒話をするように2人に顔を近づける。 「やはりカインは一週間前から行方不明だ」 ドリュウはそう切り出した。 ユグドラシルから戻ってきてからドリュウとカインは情報のやり取りをしていた。それが一週間前、突然、カインと連絡が取れなくなり、何かあったと判断したドリュウはカインの使い魔、魔鳥(まちょう)に信頼出来そうな者へ連絡を繋ぐよう命じた。それが魔物の研究者モリュウ。カインの研究の後輩であるモリュウと連絡が取れたのだ。 何故、一週間かかったかと言えば、今、オリエント帝国は緊急事態に陥っていた。それは、今まで出現がなかった場所で凶暴な魔物が現れ、発見者のモリュウが皇帝と議員に報告。緊急事態と判断し、帝国全土にいる警備隊やハンター、軍が動き出した。 その早い決断のおかげで各地に現れた魔物の被害を食い止め、辛うじてまだ死者は出ていないらしい。 全ての研究者――特に魔物の研究をしている珍しい研究者は、行方不明のカインとモリュウしかいないため――あまりにも忙しく、情報が遅れたようだ。 「1人の捜索よりも魔物退治が優先されたからな」 ドリュウはカインから貰った手紙を2人には見せることなく懐にしまっていた。 「そう言えば、ミスト区も他の区や国も魔物の警戒を強めていますね」 ユアが言った。 まだミドカルド王国では魔物の被害はまだ出ていないが、他の国ではオリエントのように出てきているらしい。 「…何か起こってるんだ?」 ライナの言い知れぬ不安を込めた疑問に答える者はいない。 その夜、不思議な夢を見た――
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