第1章 巡り合わせ

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現実とは違う鏡の中で、ユアの制服の上着が光っていた。あの位置は例の鏡をしまったポケットである。そしてライナの腕には……。 「ライナ?」 ユアが不審に思って振り返ると驚く。 鏡から生えた不自然な程白い腕が、ライナの腕に絡みついていた。 「逃げろ!」 警告を発するのと同時、腕に強い力で引っ張られ、ぶつかる事無くライナの腕と体が鏡の中へ沈んでいく。 「ライナ!」 ユアは反射的に無事な腕を掴み、引っ張るがびくともしない。 それならばと、特殊能力である具現化能力を使って破壊しようとしたが発動せず、ライナも人間離れした身体能力が使えないらしい。 「バカ!? 逃げろって」 「…無理ですね」 ユアのその一言で、ライナはユアの腕を見る。ユアも白い腕に捕まっていた。 ライナは必死に抵抗しようとしたが、2人は強い力に引っ張られ、そのまま黒い姿見の中へ―― 突然、草の匂いが風に乗って鼻を突き、慌てて顔を上げると草の上にうつ伏せに倒れていた。 ライナは起き上がろうとするが、背中に何かが乗っている。 「起きろよ、ユア」 ライナに転がされたユアは呻きながら、ゆっくりと起き上がり、困惑のあまり不快そうな表情を浮かべた。2人がいる場所は見渡す限り自然豊かな景色が広がり、まるで人一人いないかのように辺りは静かで、警戒心のない、見た事もない野生の動物達があちこちいた。 透けるような青空が広がり、平穏な雰囲気が幻想的な景色と溶け合って夢のようだ。 暫く2人はその景色を眺める。 「なぁ、気になっている事があるんだ」 ライナがそう切り出した。 「ユグドラシルの事ですね」 ユアは眠そうにあくびをする。 鏡に引き込まれたあの感覚は、かつて異世界であるユグドラシルへ行った時の、吸い込まれるあの感覚だった。 それでも、ここはユグドラシルと自分達の世界ではない事が周りの景色で明らかであるが、2人の言いたい事は違う事。 「前回の事も、今回も…」 「あの時はただの偶然と納得していましたが…」 何故異世界へ来てしまったのか、そして、ユグドラシルで起こった一連のある組織の動き。それが未だに納得ができないのだ。もやもやとした空気の中、微かな大地の振動に気づく。 2人は無言のまま遠くに見える土埃を見た。 「…何だ?」 最初は小さかった土埃も地響きも近づいているらしく、大きくなってきた。
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