1133人が本棚に入れています
本棚に追加
あなさびし、
って
三十回言うと
幸せになれるらしいよ
酷く輝いた瞳で言う君に
一抹の不安を抱えた僕は
言わなくていいよ
と
少年のように返した
別に言ってもいいじゃない
へるもんじゃないんだから
と
お構い無しに始める君を
防空壕の中から空を覗くような気持ちで
ひっそりと見ていた
三十回目のあなさびしは
とても綺麗な響きをして
世界の美しさを全て誘発させた
最後の、し
を言い切ると
君はまぁるい小人になった
酷く純粋に
にこり にこり
としていて
自分から僕の胸ポケットにもぐりこんだ
君は小さな声で、
おやすみ、
というと
静かに僕の心臓に吸収された
真っ赤になった僕の瞳は
なにもかもが嘘に思えて
迷わず三十回の幸せを唱え始めた
最初のコメントを投稿しよう!