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おれは何でもないと、首を振る。
本にしおりを挟み、バスルームへ。
会話がないのを苦痛に感じたことはない。
彼限定だが。
風呂からあがると、テーブルの上に、冷えた缶ビールが一本出されていた。
おれはビールを時々飲むが、彼はビールよりワインが好きで、めったにビールは飲まない。反対におれはワインはあまり飲まない。
「お前は? ワインの買い置きなかったっけ?」
「いい。そんなに飲みたいわけじゃないから」
残念だな、と内心思いながらソファに座り込む。バスタオルで濡れた髪をガシガシ拭きながら、ビールのプルトップを開ける。
普段無口な彼は、酔うと饒舌になる。
そのギャップは見ていて楽しいし、彼の感じたことや経験したことを知ることに、幸せを実感できる。
それがどんなに辛い過去であっても、共有させてもらえることが嬉しい。
「今日さ、同僚の…」
おれは職場でのたわいない話をする。
彼は床に座り込んだままソファにもたれている。視線はテレビに向いているが、ヘッドホンは外したままだし、手の中のコントローラーをさっきのように激しく操作してはいない。
彼が突然、振り向いた。
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