ピロートーク

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「ん?」 やおら彼は立ち上がる。戻ってきた彼の手にはワインとワイングラス、それからオープナー。 「貸して」 おれはいそいそと彼の手からオープナーを奪う。ワインはあまり飲まないが、ワインの栓を抜くのは嫌いじゃない。 彼に「上手だね」とおだてられてから、もっと上手く開けてやろうと、闘争心を燃やすようになった。 男なんて単純な生き物だ。 「くそっ、失敗した」 瓶を覗くとコルクの小さな破片が浮いている。 「平気だよ。それくらい」 彼は自分でグラスにワインを注ぐ。 グラスに注がれたやつにも、破片が浮いていた。 最初の一杯を、おれは自分で飲み干した。 「値段のわりに美味いかも」 彼はちょっとはにかんで、おれの手からグラスを奪う。 「よく言うよ。味の良し悪しがわかるほど、通でもないくせに」 まだ飲んでもいないのに、今夜の彼は饒舌だ。 「何かいいことでもあった?」 「別に…」 別に、と返してくるときは、言いたいことが本当はあるときだ。 「悪いことは?」 「ないけど」 悪いことがなかったならいい。もっもずっと家にこもっている彼に、早々悪いことが起こるとは思えない。
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