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「そういえばさ…」
おれは何気に話題を変え、彼の口から話したいことが出てくるのを待つ。
その間のおしゃべりの提供は、全然苦にならないのだから不思議なものだ。
「…なんだってさ。笑っちまうだろ?」
おれは撒き餌しながら、反応を窺う。
一言、二言返してくるところを見ると、反応は悪くない。
でもいい加減、おれの方が待ちくたびれてくる。本来、聞き役なのだから次々話題が出てくるはずもない。
とうとう間があいてしまった。
誤魔化すように何度もビールを呷る。
静かな、いつものこの部屋の時間が訪れた。
彼はグラスに三杯、ワインを飲み、飲み残しのボトルに専用の蓋をした。
明日の夕飯のメニューはおそらくビーフシチューだろう。
飲み残しの赤ワインがあるときは、たいていそうだからだ。
「もう寝るね」
彼はおもむろに立ち上がった。
結局彼が何を言いたかったのか、わからなかった。
おれはビールがなくなっても、しばらくソファに座り、密かに溜め息をついていた。
おそらくおれのわざとらしいトークなど、彼にはお見通しだ。
たぶんそうだ。
それくらいは会話しなくても、お互いわかってる。
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