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おれも居間の電気を消し、自分の寝室へ。
彼の寝室のドアの前で、数秒立ち止まる。
ノックしようか、
どうしようか。
躊躇ったあげく、おれは回れ右して自分の寝室のドアを開けた。
電気をつけようとした手が止まる。
廊下からの灯りだけでもはっきりわかった。
ベッドの上の掛け物が盛り上がり、モゾモゾと潜り込んでいく黒い頭があった。
何だ。
そういうことだったんだ。
おれはようやく納得した。
無口で、表情変化の乏しい彼を、オープンにさせるものがもう一つあった。
寝室の電気は点けずにベッドに潜り込む。
彼はベッドの端っこへと、逃げていく。
おれは仰向けのまま待った。
彼は動かない。
「寒いね」
そう呟いたら、身を寄せてきた。
「…寒いね」
そう答えながら、子供みたいに縋りついてくる。
「いいことあった?」
「……あった」
しっかり身体を抱きしめる。
「じゃあ、後で教えて」
「…覚えてたら」
おしゃべりのための器官は、別なものを生み出すものとなり、もう意味ある言葉は必要なくなる。
彼限定だが。
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