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中学生の頃、ラブレターなんてものを一度だけ貰った覚えがある。
当時は携帯電話なんて勿論なくて、手紙という代物を出したり受け取ったりする回数が、今よりずっと多かった。
近頃ポストに入っているのは9割が不要なダイレクトメールだ。
どうしてそんな風化しつつある過去の些細な栄光を思い出したのか。それは今、ポストから取り出したこの手紙が原因だ。
真っ白な横型の封筒にはきちんと切手が貼られている。住所もおれの名前も黒いペンの手書きで、プリントされていない表書きなど、本当に久しぶりだった。
だからこそ、そこに込められた想いを勝手に想像してしまい、ドキドキしながら封を開けた、遠い過去を思い出してしまったのだ。
もしかしたら、田舎の母親が送ってきたのかもしれない。
裏返してみるが、差出人の名前はなかった。
誰からだろうと首を捻りながら、エレベーターのボタンを押す。
自分の住所を知っている友人や仕事仲間は、みんな携帯番号を知っているはずだ。わざわざ時間を要する手紙など、送ってくるはずがない。
上昇するエレベーターの中で、おれは封を開けた。
四つに折り畳まれた白い便箋を取り出す。
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