164人が本棚に入れています
本棚に追加
その日は何だか落ち着かなくて、仕事中もどこか上の空だった。
具合でも悪いんじゃないかと心配され、週末はゆっくり休んで下さい、残業なんておれたちに任せてと、後輩たちから早々に職場を追い出された。
自宅への帰路、おれはこのまま真っ直ぐ帰っていいものなのか散々迷った。
何より恐れていたのは、彼の信頼を失うことだった。
彼に軽蔑されたり、呆れられるのはとても辛い。
機嫌を損ねたときのために、フォローする言葉を考えている自分に気づき、おれは自嘲した。
こんな誤魔化しはそれこそ彼に嫌われる。
おれは真っ直ぐ彼の待つ、自宅マンションを目指した。
「今日は早いんだね?」
珍しく彼はゲームの手を休め、おれを出迎えてくれた。
「やっぱり効果あった?」
彼は意味深な笑みを浮かべた。
おれはドギマギしながらスーツの上着を脱ぐ。
やはりあの手紙の差出人は彼だったのだ。
「着替えたら散歩しよう」
「夕飯は?」
「後で」
彼に誘われるままおれたちは、北風に枯れ葉が乾いた音を立てる、12月初めの夜の街へと歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!