ラブレター

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そこは自宅マンションのベランダから見える、小学校だった。 いつものこの時間なら無人であるはずの校庭には、大勢の人影があった。 この学校の校庭には樹齢百年を越す、大きなモミノキがある。 数年前からクリスマスの時期になると、このモミノキがライトアップされるようになった。 でも毎年気づくとライトアップされていて、いつ誰がそれをやっているのかがとても気になっていたのだ。 去年もベランダからそれを眺め、彼にぼやいたことを思い出した。 くそっ、来年こそその現場を押さえてやる。 言った本人さえ忘れていた、そんな些細なことを彼は覚えてくれていたのだ。 「子供の父兄と商店街の青年部の人たちが協力して、飾り付けてるんだって。やる日は間近にならないとわからないみたい。はっきり決まってはないんだって」 「どうやって調べたんだ?」 「商店街の人に訊いた」 「お前が?」の疑問符は口にしなかった。 まるで彼を見くびっていたような言い方だ。 「手伝いたいって言ったら、助かりますって感謝されちゃった」 動こうとしないおれに、彼は柔らかに微笑んだ。 昔の彼からは想像もつかない無垢な笑み。
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