ファミリー

2/6
前へ
/48ページ
次へ
灰色に煙る小雨の中、たった二両しかないディーゼル列車はゆっくりとしたスピードで進んで行く。 五年振りに見る風景だが、何一つ変わっていない。 小さな駅舎。 通り過ぎる無人駅。 大晦日だというのに、慌ただしさなど微塵も感じさせない長閑な時間の流れ。 そんな懐かしさにほんの少し、センチメンタルになりながら、窓に額を寄せる。 彼はこの景色を懐かしいと感じるだろうか。 もう二度と思い出したくない場所として、まだ嫌悪を感じるだろうか。 それとも、記憶の片隅にさえ残すことなく全てを消去し、何の感情も持たずに眺めるのだろうか。 人の心はパソコンのように、そう簡単に全てを消去できはしない。 だから彼は苦しみ、悩み、自分を壊した。 おそらく彼がここを訪れ、懐かしいと思えるようになるのは、まだ何十年も先のことだろう。 正月に帰省する気など毛頭なかった。 親が元気なことはわかっているし、年末年始の人混みの中、出掛けたいと思うほど若くもないし、何より彼を一人にしてしまう。 ましてや彼が忘れたいと思ってる場所に向かうことが、どうにも嫌だった。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

164人が本棚に入れています
本棚に追加