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四歳下の妹が婚約者を連れてくるから「あなたも顔くらいだしなさい」の母の執拗な電話攻撃にはとうとう勝てず、白旗を上げてしまった。
こうしておれは不本意ながら、実家へと向かっていた。
高校まで過ごした場所、彼が決別した場所へと。
列車を降りると閑散とした駅前風景が寒さを助長し、首に巻いたマフラーで鼻先まで覆った。
カシミヤのマフラーは、彼が今年のクリスマスにプレゼントしてくれたものだ。
彼と同居するようになって、初めてもらったプレゼントだ。
それは一人で外出できるようになった証でもある。
歩きながら携帯を取り出した。
『着いたよ。ゴーストタウンみたい』
文字を打ち込み送信する。
よくノートを買った文房具屋。部活帰りに寄り道したラーメン屋。電気屋にクリーニング店。
どれもシャッターが降りている。大晦日だからなのか、もう商売はしていないのか、どちらなのかはわからない。
でもこの田舎町に跡を継ぐような若者は、数えるほどしか残っていないだろう。
彼が忘れようとしなくても、ここはいずれ忘れ去られる。
役目を終えようとしている町なのだ。
コートのポケットで携帯が震えた。
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