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「旅行に行かない?」
ある寒い夜、ベッドの中で彼はそう言った。
おれは耳を疑った。
聞き間違えたんじゃないかと思ったくらいだ。
「海がいいな。青い海。あんまり観光客がいないような」
最近やっと一人で出歩けるようになったことを、嬉しく思ってた。
だからいつかは二人で遠出できるかもしれないと、淡い期待をしていた。でもまさか、それがこんなに早く訪れるとは、さすがに思いもしなかった。
室内の明かりは灯してないため、彼の表情は窺えない。
見られたくないから、彼もここでこんな話を持ち出したのだろう。
「海か……。冬の海って寂しくないか?」
「…もう少し暖かくなってからでいいよ」
彼はそう言ったが、おれとしては彼の気が変わらないうちに実現したかった。
「沖縄は? 二泊三日で沖縄に行かないか?」
沖縄と、具体的な地名を口にしてしまってから、いきなりそれは無謀か、と内心反省した。
沖縄では車で行くことができない。
飛行機に乗らなければならない。
いくら彼から旅行に行こうと言い出したにせよ、沖縄は遠すぎる。
最近まで引きこもっていた彼には、海外に行くようなものだろう。
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