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どうやら買い物に行ったらしい。
珍しいこともあるものだ。
おれはボリボリ寝乱れた髪をかきむしりながら、彼の背に続く。
「腹へったな?」
「リンゴでも食べたら?」
彼はオープンキッチンの向こうに見える居間を、細い顎先で指した。
居間のテレビの前のローテーブルには、真っ赤なリンゴが二つ、転がっている。
二日前におれがスーパーで買ってきた、ビニール袋に入ったリンゴで、四個入りだった。
「食べたんだ? 赤いリンゴ」
彼は赤より青いリンゴが好きで、赤いのは食べない。シャキシャキした感覚と酸っぱさが苦手なのだ。
だからいつも青いリンゴしか買わないのだが、一昨日は何故か無性に赤いのが食べたくて、彼が食べないのを知っていて、買ってきてしまった。
買ってきた日にひとつ食べた。
彼はシャカシャカ美味そうにそれを食べるおれに顔をしかめ、食べ終わるまで耳を塞いでいた。
「結局、食べてるじゃない。これからは赤いのと交互に買ってこよう」
おれはローテーブルの前に座り込み、軽く表面をパジャマで擦っただけで、赤いリンゴにかじりついた。
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