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でも予想に反し、彼の声は明るかった。
「…いいね、沖縄。行ったことない」
沖縄どころか彼は関東から出たこともないはずだ。
何だか急に不安になって、おれは身を起こすと隣に横たわる彼へと手を伸ばした。
馴染んだ体温、馴染んだ肌の感触に安堵する。
彼の手がおれを引き寄せる。
唇が重なる直前、彼は囁いた。
「…もうすぐ、誕生日だね」と。
来月、おれは一つ年を取る。その一カ月後、彼の誕生日がくる。
そうしておれたちは十一年目の春を迎えることになる。
十年がひと昔なら、おれたちの再会はひと昔以上前の出来事だ。
「…おれたちも、もう立派なオヤジだね?」
キスしながら彼は笑う。
「自分で自分をオヤジだなんて言うやつほど、そんなふうに思ってないんだよ」
首筋へと唇を移動させ耳朶を軽く食むと、彼はくすぐった気に身を捩った。
「…お前はオヤジなんかじゃないよ。全然」
十年前から変わっていない、滑らかな肌を弄る。
彼は変わっていない。いつまでも少年みたいな無駄のない綺麗な体つきをしている。運動不足と仕事のストレス、アルコールによって筋肉が落ち、弾力を失いつつあるおれとは大違いだ。
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