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身を捩りながら彼はぎゅっと、おれの体を抱きしめてきた。
「なぁ、動けないよ」
そう笑いながら文句を言っても、彼の両手は緩まなかった。
お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて眠る子供みたいに、「離さないよ」の声が聞こえた気がした。
翌日から沖縄旅行の実現に向け、おれは動き出した。
昼休みにはネットで、仕事帰りには本屋で情報収集した。
彼を笑う権利はない。実はおれも沖縄には行ったことがなかった。
沖縄のどの辺りがいいのか、どのホテルに宿泊するのがいいのか、彼のことを考えながら探す作業はとても楽しかった。
ガイドブックを一冊買って就寝前のひと時、ベッドでそのページを捲っていると、風呂上がりの彼が寝室のドアを開けた。
「どうした?」
ふた晩続けて一緒に休んだことなど、これまで一度もなかった。
だから彼の訪室も、何か別な用事があるのだろうと予測していた。
どうやら違うことに気づき、おれはベッドの左半分を彼のために用意した。
「このホテルなんてどう?」
彼は寝室の明かりをパチリと消し、ゆっくりと用意されたスペースに入り込む。
読書は終わりにしろと言うことらしい。
おれはガイドブックを閉じた。
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