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洗ったばかりで、まだ湿り気のある髪が頬に触れた。
夕べのように彼はおれにしがみついてくる。
「…どうした? 何かあった?」
さすがに普段とは違う彼の行動に戸惑いながら、おれも彼を抱きしめる。
彼は決して甘えたり、ベタベタするタイプではない。
こんな関係になってしまっても、好きだとか愛しているとか、言われたことはない。
どう思っているのかと、問いただされたこともない。
どう思っているのか、きちんと気持ちを伝えたこともない。
自分からそれを言うのはあまりに自分勝手な気がして、ずっと言えずにいた。
おれは抱くことのできない恋人の代わりに彼を抱いた。
それを彼は承知していた。
おれに同情して、拒まなかった。
恩人に無碍な仕打ちはできなかった。
彼の気持ちはわかっていた。
だからおれは何も言えない。
今更、好きだなんて言えない。
彼を無理やり犯したくせに、そんな都合のいい言葉は言えない。
「…まさ…」
名を呼ぼうとしたら、口を塞がれた。
何も言いたくないし、何も言って欲しくない。
そんな意図が伝わってくる。
旅行に行く前の夜まで、おれは毎晩、彼を抱いて眠った。
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