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彼は忽然と姿を消した。
旅行のために持ってきた、わずかな着替えだけ持って。
丸一日彼を探し、警察に捜索願いを出し、おれは一人で東京に戻った。
東京のおれのマンションには、彼の荷物のほとんどが残されたままだった。
やりかけのゲームも。
愛用していたパソコンも。
彼専用のマグカップも。
夢だと思いたかった。
これは悪い夢なんだと。
天国から地獄に突き落とされたようだった。
何がいけなかったのか。おれのどこが嫌だったのか。
問いかけても彼は答えてくれない。
二日後、彼からの手紙が届いた。
手が震えてなかなか封が開けられなかった。
おれはよくない想像をしていたからだ。
これは彼の遺書なんじゃないかと。
込み上げてくる涙で文字が滲む。
膝から力が抜け、おれはその場に座り込んでしまっていた。
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