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「混んでたよ。商店街さえ」
「たまには混まないと商店街が潰れる。潰れたらこの辺の住人が困る。たまに混んでるのはいいことだよ」
新聞の折り込みチラシに目を通す。その商店街に新しいペットショップがオープンしたらしい。
「なぁ、こいつ可愛い」
生後間もない子犬のあどけない瞳に、自然と頬が緩む。
キッチンからいい匂いが漂ってきた。
「なぁ、お前、犬派? 猫派?」
「どっちも」
「好きなの? 嫌いなの?」
「好き。…お前は?」
「うーん、犬かな? 子供のころ、実家で飼ってたんだ」
「犬飼いたい?」
「今は面倒みられないから。飼われる犬が可哀想だ。だからいいや」
それに彼がいる。
ペットなんていなくても、寂しいだとか、虚しいだとか、感じることがない。
「できたよ」
彼が両手に皿を持って、居間に入ってきた。鳴き止んでいた腹の虫が、ケチャップの匂いに誘われまた騒ぎ出す。
おれはフォークを取りにキッチンへ。
「いただきま…」
フォークを手に、嬉々として皿に向かったおれは、…固まっていた。
美味そうな匂いの中に、漂うあの香り、あの緑色の物体が…。
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