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「………」
「いただきます」
彼は子犬みたいにあどけない瞳と、ムッとするような笑顔を見せた。
美味そうなナボリタンには、おれが大嫌いなピーマンが入っていた。いくら細く切ってあろうが、ピーマンはピーマンだ。
これは明らかにリンゴの仕返しだ。
赤いリンゴの仕返し。
「食べないの?」
赤いリンゴを克服した彼の手前、敵前逃亡はあまりに情けない。
「…食べるさ」
おれはゴクリと唾を飲み込み、ナボリタンにフォークを突き刺した。
意を決し、口に運ぶ。
「商店街が潰れないように、ペットショップにでも行ってみる?」
彼が自分から出掛けようと言い出すなんて、初めてのことだった。
「ダメだと思い込んでいたことでも、案外簡単に平気になったりするものだね?」
細く白い指が器用にフォークを動かす。
彼が見た目以上に体温が高いこと。
見た目以上に感じやすいこと。
今はそれを知っている。
感情のないアンドロイド、氷の王子。
それが知り合ったころの彼の印象だった。
みんな、ただの思い込みだった。
おれはナボリタンを味わう。
あんなに嫌だったピーマンの香りがあまり気にならなかった。
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