†中絶…†

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      ーガチャッー     診察室への一枚戸を、先に行くお父さんが開ける。     一瞬消毒液の弱い香りが鼻をついたけどすぐに消えた。         「朱槻さんですね。どうぞ、椅子にお掛けください」       「それじゃあ俺は外で待ってるから」         お父さんが出ていくのを見届けて、椅子に座った。         「こんにちは、今日はどうなされました?」         「あ…なんか吐き気と頭痛がひどくて…」         九條先生は、見た目は30代後半ぐらいだろうか…   いかにもやり手といった雰囲気を醸し出している。         この人を前にすると、何もかも見透かされそうな気がして心臓が動きを速めるのを感じた。       「症状はいつから?」       「えっと…始まりは3週間くらい前から時々…」       「3週間前…はい、わかりました」   すらすらとカルテに書き込んでいく         「生理はいつきました?」       「えっと…3ヶ月以上前です」     「…3ヶ月?嘉奈衣、それ本当なの!?」         突然、血相を変えてお母さんが問いただす。       「え!?…あ、そういえば1ヶ月前にきた…」         「…もぉ、びっくりさせないでよ!」       「えへへ、ごめんごめん…」           …危なかった、3ヶ月も生理きてなかったらほぼ妊娠じゃん…           「……わかりました」           これまで単語しか書いていなかった先生が、何やら長い文を書いているようだった。       お母さんはごまかせたけど…なんか先生顔つきが変わったような気がする…       診察室にカリカリッ…というペンの音だけが響き渡った。    
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